陸山会事件での検察審査会の議決内容・・・その(2)見えてこない司法感覚的な視点
2010年 04月 30日
日歯連事件や鳩山首相事件の審査会は、法制度と市民感覚のはざ間で苦しみながらもそれなりの結論を出したと思う。
しかし今回の審査会のレベルはそれとは違い、感情優先と見られても仕方がないものになっている。
< 5 政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。
(1)「秘書に任せていた」と言えば、政治家本人の責任は問われなくて良いのか。
(2)近時、「政治家とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い。
6 上記1ないし3のような直接的証拠と状況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については、被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。よって、上記趣旨の通り議決する。>
< >内が、議決内容の後半部分のあらすじである。前半部分については事実認定の根拠について書いてある。
<>内(1)の「秘書に任せたといえば政治家本人の責任はとわれなくていいのか」という部分は特に感情的だ。
「秘書に任せて・・・」はなるほど確かにそれでいいはずはない。しかしそうなってしまうのは、政治資金規正法に「不備」があるからである。それを「それでいいのか」「いいはずがない」だから「裁判にかけろ」では、理由(法制度的な)になっていない。
刑事裁判は犯罪要件を満たす証拠が有罪を立件できるレベルにあると思われて、はじめて行なえる。立証は難しいけれど「あいつは悪いやつ」、だからとにかく裁判に引きずり出せというのは、裁判がどういう場所かを履き違えている。それをやれば個人の人権なんてひとたまりもない。
「やってないんなら、結局無罪になるだろう。それでいいではないか」は、裁判の負担の大きさを知らない「お気楽」く人間のいうことである。裁判自体で、人は心理的・経済的に相当なダメージを受ける。だからギャンブル的なレベルで(イチかバチカ、あるいは見せしめで)起訴していいはずがない。
☆ ☆ ☆
今回の審査会の質は、(1)「政治か本人の責任は、問われなくていいのか」(2)「市民目線からは許しがたい」(3)「これこそが善良なる市民としての感覚」という言葉で容易に察しがつく。これらの言葉を見る限り、謀議の事実認定に感情的部分が相当はいっていると言わざるを得ない。
法の不備があるなら、その不備を是正するよう勧告するのが本来のあり方(実際先の審査会はそうしている)であって、「いいわけないから」「裁判にかけるべき」というのは感情論以外のないものでもない。
そういった意味では、「法の趣旨・目的・世情に照らして」という彼らの文句はただの飾り文句にしかみえずむなしく響く。
(1)~(3)の言葉を見る限り、審査員は立件の対象になっていない「裏献金疑惑」の存在を起訴肯定の念頭においていいるのは明らかだ。完全に審査の範囲を逸脱してしまっている。これでは、検察審査会制度本来のありかたをゆがめてしまう。「魔女裁判」的審査会と言われても仕方ないであろう。
肯定のよりどころをあまりに「支配関係」だけに求めすぎていないか。支配関係がが肯定されれば、明らかになっている事実だけで本当に「共謀」ありとしていいのか。あるいは、これまでの日付(虚偽記載)の事案がどう刑事処理されてきたか。共謀共同正犯の適用をはたしてこのケース(日付の虚偽記載=形式犯的もの)にまで拡張していいのか(あるいはこれまで同種の事案にこれが適用されたケースはあるのか)。そうした観点も審査会できちんと論議されたのか。
民主的な「多数感覚」を司法に反映させるとしても、そこにはおのずと限界がある。司法は「少数感覚」も必要とするからである。そういう意味では司法の世界においては民主的「多数感覚」は万能ではない。それだけでは、個人の尊厳(人権)は決して守れない。冤罪をださないためにも、それは重要なことである。
そうしたことからいえば、容易に起訴できる(証拠も十分ある)のに、何らかの政治的・圧力的理由で検察が起訴しない、こういう場合こそが検察審査会がもっとも機能する場合であろう。証拠の不十分さで検察が躊躇している場合には、よほどのことがない限り・・・審査会の起訴理由が検察の不起訴理由を超える論理的説得力を持たない限り・・・起訴は肯定されるべきではない。私には今回の審査会の決議が内容を見る限り、そのレベルにあるとは思われない。
「そこのけ、そこのけ、善良な市民感覚のお通りだ。それで(司法の世界でも)何でもOK」私には今回の内容をみると、そういった審査会の認識の甘さが垣間見えてならない。司法的な感覚が今回の審査会からはなかなか見えてこないのである。
しかし今回の審査会のレベルはそれとは違い、感情優先と見られても仕方がないものになっている。
< 5 政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。
(1)「秘書に任せていた」と言えば、政治家本人の責任は問われなくて良いのか。
(2)近時、「政治家とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い。
6 上記1ないし3のような直接的証拠と状況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については、被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。よって、上記趣旨の通り議決する。>
< >内が、議決内容の後半部分のあらすじである。前半部分については事実認定の根拠について書いてある。
<>内(1)の「秘書に任せたといえば政治家本人の責任はとわれなくていいのか」という部分は特に感情的だ。
「秘書に任せて・・・」はなるほど確かにそれでいいはずはない。しかしそうなってしまうのは、政治資金規正法に「不備」があるからである。それを「それでいいのか」「いいはずがない」だから「裁判にかけろ」では、理由(法制度的な)になっていない。
刑事裁判は犯罪要件を満たす証拠が有罪を立件できるレベルにあると思われて、はじめて行なえる。立証は難しいけれど「あいつは悪いやつ」、だからとにかく裁判に引きずり出せというのは、裁判がどういう場所かを履き違えている。それをやれば個人の人権なんてひとたまりもない。
「やってないんなら、結局無罪になるだろう。それでいいではないか」は、裁判の負担の大きさを知らない「お気楽」く人間のいうことである。裁判自体で、人は心理的・経済的に相当なダメージを受ける。だからギャンブル的なレベルで(イチかバチカ、あるいは見せしめで)起訴していいはずがない。
☆ ☆ ☆
今回の審査会の質は、(1)「政治か本人の責任は、問われなくていいのか」(2)「市民目線からは許しがたい」(3)「これこそが善良なる市民としての感覚」という言葉で容易に察しがつく。これらの言葉を見る限り、謀議の事実認定に感情的部分が相当はいっていると言わざるを得ない。
法の不備があるなら、その不備を是正するよう勧告するのが本来のあり方(実際先の審査会はそうしている)であって、「いいわけないから」「裁判にかけるべき」というのは感情論以外のないものでもない。
そういった意味では、「法の趣旨・目的・世情に照らして」という彼らの文句はただの飾り文句にしかみえずむなしく響く。
(1)~(3)の言葉を見る限り、審査員は立件の対象になっていない「裏献金疑惑」の存在を起訴肯定の念頭においていいるのは明らかだ。完全に審査の範囲を逸脱してしまっている。これでは、検察審査会制度本来のありかたをゆがめてしまう。「魔女裁判」的審査会と言われても仕方ないであろう。
肯定のよりどころをあまりに「支配関係」だけに求めすぎていないか。支配関係がが肯定されれば、明らかになっている事実だけで本当に「共謀」ありとしていいのか。あるいは、これまでの日付(虚偽記載)の事案がどう刑事処理されてきたか。共謀共同正犯の適用をはたしてこのケース(日付の虚偽記載=形式犯的もの)にまで拡張していいのか(あるいはこれまで同種の事案にこれが適用されたケースはあるのか)。そうした観点も審査会できちんと論議されたのか。
民主的な「多数感覚」を司法に反映させるとしても、そこにはおのずと限界がある。司法は「少数感覚」も必要とするからである。そういう意味では司法の世界においては民主的「多数感覚」は万能ではない。それだけでは、個人の尊厳(人権)は決して守れない。冤罪をださないためにも、それは重要なことである。
そうしたことからいえば、容易に起訴できる(証拠も十分ある)のに、何らかの政治的・圧力的理由で検察が起訴しない、こういう場合こそが検察審査会がもっとも機能する場合であろう。証拠の不十分さで検察が躊躇している場合には、よほどのことがない限り・・・審査会の起訴理由が検察の不起訴理由を超える論理的説得力を持たない限り・・・起訴は肯定されるべきではない。私には今回の審査会の決議が内容を見る限り、そのレベルにあるとは思われない。
「そこのけ、そこのけ、善良な市民感覚のお通りだ。それで(司法の世界でも)何でもOK」私には今回の内容をみると、そういった審査会の認識の甘さが垣間見えてならない。司法的な感覚が今回の審査会からはなかなか見えてこないのである。
by phtk7161
| 2010-04-30 21:50