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社会問題を考える


by phtk7161
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君が代伴奏拒否による懲戒処分の判決について

君が代伴奏拒否についての戒告処分取り消し訴訟の判決がでた。
         
多数意見ののべるところは、君が代の伴奏は「内心の自由」自体を侵害するものではない。伴奏を命ずることは「踏み絵」的ものではない。君が代の伴奏は、原告の信条に密接に付随するものではなく、それをしないことによる学校の行事への弊害と比較すると、伴奏拒否は正当と認められない。端的にいえば、こんなところか。

         ☆    ☆    ☆

判決の多数意見については、大雑把であるとの印象をもたざるえない。
多数意見は、信条を単に表面的に定義しただけにすぎず、さらにその実質的中身まで踏み込んでの考察ができていない。多数意見の裁判官は「信条」の実質について、そもそも空間的理解ができていないのではないか。

君が代に関する歴史的経緯を考えるとき、戦争に利用され、しかしその責任はある天皇を、礼賛するような歌詞(なお私は曲の韻的な面は問題となるとは思ってない)を持つ君が代に対し、否定的((肯定でもそうだが)な思いを強く持つ人にとって、その曲の伴奏を拒否(肯定)する信条は宗教と同じくまさに人格の尊厳そのものに関わってくる問題である。この場合内心と外部行為とはかなり密接的に付随するものであるといっていい。

「公共の福祉」の検討についても、どうも個人対組織(多数)あるいは公務員的側面を平面的に比較し、利益衡量としてもかなり雑である。特に子供の教育にとってマイナスとするくだりは、論外である。いまや子供の教育問題に、君が代拒否などなんの関係もない。君が代を伴奏しない先生がいるからといって、伴奏の代替が可能な限り、子供の教育に何らの影響もない。これは今の子供を見る限り断言できる。
すでにこのブログで何度か述べたが、子供の教育上君悪影響を与えるもの(しかも高いレベルで)は、学校外のほうに五万とある。多数意見はもっともらしい理由を述べたつもりかもしれないが、むしろとって付けた理由であることがかえってみてとれ、それが今回の判決の底の浅さをあらわしている。

拒否の根底にある平和への信条から君が代の伴奏をやりたくないものに、行政の力を持って伴奏を強制することは、間違いなく「踏み絵」といえる行為である。人格の尊厳を、単に学校の管理維持などとの単純比較で押し切っていいものか。もう少し、利益の比較は実態に即して綿密にやることが必要であろう。今回はあらかじめ拒否を伝えている場合なのだから、テープ(今回はこれを実際にやった)や他の人間によるや君が代伴奏・・・通達がこれを音楽の教師に限るとしていることも問題・・・の代替手段も可能であり、前者による方法が多少違和感を覚えるとしても、そのことが学校行事に著しい弊害をあたえるとはいえないであろう。

こんな内容の判決では、今の最高裁に今回の問題のその先にある本当の危険・・・公的力(罰則規定等)による特定の思想の強制・・・への考察などのぞむべくもない。いやむしろ日本会議に元最高裁長官が参加してる現実からすれば、今回の多数意見は確信犯というべきか。それでもいくらか救いはあった。行政法の学者出身の藤田裁判官の少数意見である。多数意見よりはるかに妥当であると思う。政教分離をめぐる自衛隊合祀のときの少数意見を述べた伊東裁判官とその本質において、同じ人権感覚の鋭敏さを感じる。

        ☆    ☆    ☆

君が代に対する、肯定、否定、どちらの信条をとるにしても、今回の判決の結果は他人事ではない。一定の考えを外部的行為(しかも不作為の形での)にあらわすことを禁止される危険があることにはかわりないのである。一方的価値しか認めない社会こそ、それがすなわち北朝鮮という国の姿であることを肝に銘ずるべきだと思う。

敗訴となった今回の訴訟ではあるけれども、今回の処分がもし解雇レベルの処分であれば、処分の裁量の範囲を超えてるとして、処分を違憲とした可能性は十分にある。そういう意味では、今回の判例の射程範囲は、処分の中身によっていまだかなり限定されたものと捉えるべきだろう。したがって、もし今回より重い処分が出されたときは、勝訴する余地は十分ある。
もちろん多数意見には「本当に大丈夫か最高裁!」といいたい。この判決に関して最高裁は、純理的判断による少数者の人権のとりでとはとてもいえない。むしろ最高裁が行政権の強力な補助機関にすらみえてくる。司法までも今の政治と同じく、その先の危険に鈍感では困る。
by phtk7161 | 2007-02-28 02:06